ベートーヴェン
交響曲第5番ハ短調作品67
Ludwig van Beethoven: Symphony No. 5 op.67 c minor
ベートーヴェンの交響曲第5番はロマン・ロランの評する「傑作の森」の一角をなす作品である。この作曲家の作品中でも形式美・構成力において非常に高い評価を得ており、ベートーヴェンの創作活動の頂点のひとつと考えられている。ベートーヴェンの交響曲の中でも最も緻密に設計された作品であり、その主題展開の技法や「暗から明へ」というドラマチックな楽曲構成は後世の作曲家に模範とされた。なお作品はピアノソナタ第23番「熱情」などが主題や構成の面から関連作品と考えられている。



ベートーヴェン 交響曲第5番ハ短調作品67
Ludwig van Beethoven: Symphony No. 5 op.67 c minor
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1807年~1808年の初めに完成したこの曲の初期のスケッチは、1803年には既にみられている。そのことから考えると、この曲は、交響曲第3番「英雄」の完成(1804年)以前から着想しており、その間に第4番を書き上げながらもまだ構想を練りようやく世に出た、構想期間約「5」年の超大作なのである。
この曲の作曲を始める前年の1802年、ベートーヴェンは難聴に絶望し、遺書を書いている。この遺書は「ハイリゲンシュタットの遺書」として有名であるが、その内容は決してネガティブな内容だけではない。難聴に苦しみながらもそれに立ち向かい、自身の使命を全うしようという、非常に前向きで力強い言葉がしたためられている。その強い思いから生み出された曲、それがこの交響曲第5番なのである。
第1楽章:Allegro con brio
この曲でまず誰もが思い浮かべるのが、1楽章の冒頭から繰り出される「ンタタタターン」という、別名『運命の動機』だろう。この動機は1楽章だけで200回以上も形を変え、楽器を変えて繰り返される。
ホルンによる運命の動機に導かれるように、ヴァイオリンからクラリネット、フルートへと流れるように受け継がれながら、美しい第2主題が奏でられる。
展開部では綿密に計算して作られたパズルの様に、最初の動機が隙間なく組み込まれ発展して再現部へ入る。呈示部と違い、再現部では全ての楽器により運命の動機が奏でられる。
第2楽章:Andante con moto
1楽章とはうって変わって、全ての緊張から開放されたかのような穏やかな主題で始まる変奏曲。
コン・モート(歩くような速さで)と記されている主題をヴィオラとチェロが歌いだすと、それを木管が受け継ぎ、しっかりと進んだ後、ffの全合奏からppへと収束してゆく。
第1変奏もヴィオラとチェロで歌いだされるが、主題のメロディーから符点が排され、16分音符で動いていく。第2変奏ではさらに細かくなり、32部音符になる。
第3変奏に入ると主題はその形を戻し、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがオクターブで力強く主題を奏でる。
コーダ部はpiu mosso(それまでより速く)。美しい楽章は力強い一音で雄大に締めくくられる。
第3楽章:Allegro
ppでチェロとコントラバスから始まるスケルツォ冒頭は、『幽霊の動機』と呼ばれている。
これにヴァイオリンが応え、また繰り返されると、突然、ホルンによって1楽章の運命の動機が何度も繰り返される。
トリオ部もチェロとコントラバスから始まる。低音域が忙しく駆け上るようなこの主題を聞いたベルリオーズは「まるで象が喜んで踊っているようだ」と評したという。
再びスケルツォに戻り、コーダ部では、ティンパニが叩く運命の動機に呼応するかのようにヴァイオリンが動き出し、長調になったかと思うと爆発的に音量を上げ、眼前の霧が急に晴れたかの様にハ長調の4楽章へと途切れることなくつき進む。
第4楽章:Allegro
第3楽章から続けて演奏される第4楽章では、それまでの交響曲では使われたことのなかったピッコロ、コントラファゴット、トロンボーンも加わり、輝かしい主題を奏でる。
第2主題では短い音3つと長い音、という運命の動機を思わせるフレーズをヴァイオリンが呈示する。運命の動機は、展開部にある3楽章スケルツォの回想にも現れ、全体を通して使用されている。
ファゴットから始まるコーダは徐々に速度を上げ、最後は終止の和音を何度も繰り返し、終わりを惜しむかのようにして幕を閉じる。
text: 大宮 哲朗
photo: 渡部晋也


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